DuetCTIの歴史

 弊社開発のシンプルなCTIシステム「DuetCTI」は、(本記事を執筆した2017年10月時点で)今から17年以上前の2000年夏にルーツを遡ることが出来ます。当初、弊社社員の一人がISDNダイヤルアップルータを利用した簡易的なCTIソフトを個人的に開発し、ベクターにフリーソフトとして掲載しました。2000年7月のことです。最新のPC環境で動作するかどうかは別として、そのソフトは今でもダウンロード可能です。 

 

その後、このソフトの開発を会社として引き継ぎ、個人や小規模な事業所対象の製品として、2005年4月、「TinyCTI」という名称でベクターにシェアウェアとして掲載しました。  この「TinyCTI」は自社のウェブサイトでも宣伝し、幾人かの方に購入して頂けました。

 

そしてその後、幾たびもの改良を施し、社内ネットワークを備えた企業様にも使用して頂けるCTIシステムとしてまとめたものが、「DuetCTI」です。幾つかのバージョンが存在しますが、現在も何社かの地元企業様に毎日利用して頂いています。嬉しいことに、一度使用すると、手放せなくなるようです。

 

基本的な仕組み

かれこれ20年近く変遷を遂げてきた「DuetCTI」ですが、当初から基本的な仕組みは変わっていません。つまり、電話主装置に依存させず、できるだけ電話局に近い側で番号情報を取得し、利用者のPCに顧客情報などと併せてポップアップウィンドウを表示する、という仕組みです。

 

もちろん、途中で様々な方法を試しました。発着信情報を取得する方法については、電話主装置と密接に連携する方法も試しました。NEC AspireX、日立 integral-Eシリーズ、またNTT Pacsiaや、フリーのSIPサーバであるAsteriskとの連携を試みたこともあります。特定の主装置専用にするメリットも有ります。特に日立 integral-Eシリーズ(ナカヨNYC-iEシリーズ)とは相性がよく、内線番号の情報まで把握できます。今でもこの主装置と組み合わせた「DuetCTI」は現役で稼働しています。

 

とはいえ、特定の電話主装置に依存した方法はどうしても汎用性が無く、開発コストもかかります。それでやがて、主装置よりも電話局側で発着信情報を取得するという、当初からの方式に回帰していきました。YAMAHAのISDN対応ルータや、アナログ回線の場合は日興電機さんの「アロハ」シリーズを利用して発着信情報を取得する方式が再び主流になっていったわけです。

 

ひかり電話への対応

とは言うものの、最近NTTフレッツ光ネクスト回線で使用する「ひかり電話」が急速に普及してきました。もちろん、ISDN対応のひかり電話アダプタを導入頂ければYAMAHAのルータと組み合わせて「DuetCTI」をそのまま使い続けることは可能です。(実際にそうして頂いているお客様もあります)

 

ところが、2015年頃からでしょうか、「電話の契約を変えたらDuetCTIが使えなくなった!」と急に連絡を頂くことが何度か有りました。調べてみると、電話業者さんのススメで「ひかり電話」に変更したとのことです。またその機会に電話主装置も一新し、ひかり電話直収タイプにした、というケースが多いです。

 

もちろん弊社の責で「DuetCTI」が使えなくなったわけではないのですが、困るのはお客様ですので、なんとか対応しなければなりません。(一度使用すると、手放せなくなるので…)とりあえずはISDN対応のひかり電話アダプタを追加頂いたり、主装置ビハインドで「アロハ」を入れたりして頂きました。しかし、追加の出費が必要ですし、せっかくひかり電話を直収できるのにわざわざアダプタを後付けするのは、どう考えてもスマートな方法ではありません家庭用のひかり電話HGWならSIP端末として「DuetCTI」を登録して番号を取れるか、などと考えたことも有りましたが、企業向けには難しそうです。

 

そんな折、ある時NTTの方から、「ひかり電話の信号をキャプチャしてみたら、わりと簡単に情報取れそうだけど、DuetCTIで使えない?」と提案頂きました。2016年の夏頃のことだったと思います。その方も、担当先をひかり電話に変えたら「DuetCTI」が使えなくなって困っていたわけです。直感的に「すぐには無理かな~」と思っていましたが、実際にやってみると、以外に簡単に情報を取れそうではありませんか!早速、「DuetCTI」をひかり電話にネィティブ対応すべく改良をはじめました。

 

ひかり電話専用DuetCTIの誕生

ひかり電話の信号をキャプチャするのは、そんなに難しいことではありませんが、電話システムに直接機械を挟むことになるので、注意は必要です。当初、ミラーポート付きのスイッチやリピータハブを使ってみましたが、ひかり電話回線に影響を与えてしまい、電話が使えなくなってしまうことが有りました。

 

そんな時に出会ったのが、IOデータさんのミラーリング専用ボックス「BX-MR1シリーズ」です。サポートの方に確認した所、元パケットに影響を与えてしまうことは無い、と教えて頂き、安心して光電話回線に挟むことが出来ます。実際に使用してみた所、まったく問題なく信号をキャプチャすることが出来ました。

 

さらに情報を集めていると、LANポートを3つ備えたワンボードコンピュータが目に止まりました。それが「PCEngines apu2」シリーズです。早速購入し、試してみた所、とても良い感じで動作します。うまく設定すれば、ひかり電話の信号をキャプチャできるのはもちろん、データベースまで同梱できてしまいました。従来、信号キャプチャ装置+「DuetCTI」サーバが必要でしたが、これ1台で手軽にCTIを導入できそうです。弊社では「PCEngines版CTIシステム」として情報を提供しています。

 

実際に弊社では「PCEngines版CTIシステム」を利用してしばらくCTIを運用してきました。もちろん、この機械が停止してしまうと電話が使えなくなります。しかし今のところ、暑い夏でもそのような障害が起きること無く、順調に稼働しています。(もちろん、他のサーバ機器と同様、クーラーの効いた部屋に設置して下さい)停電時にどうするか、など、課題は残っていますが、とりあえず最小限のCTIシステムを動作させるだけであれば、すぐにでも納入可能な状態になっています。(現在、PCEngines専用の小型UPSを開発中です)

 

今後の展望

以上のようなわけで、今後はひかり電話専用のDuetCTIがメインになってきそうです。ひかり電話の場合、複数チャネル契約して同時に何通話も行えますが、当初からの基本的な仕組みに従い、主装置より電話局側で信号を取得する方法であれば、すべてのチャネルをCTIに対応させることが出来ます。小型の機器を1台導入するだけですぐにCTIが使用できるというのは、とても便利なのではないかと思います。

 

ちなみに、NTT東日本管内では小型ONUも利用されているようです。この機器を利用するとONUと電話主装置の間にパケットキャプチャ装置を挟むことが出来ませんが、「NTT技術ジャーナル2016.1」には「小型ONU対応パケットキャプチャへの取り組み」という記事が掲載されており、小型ONU利用時でもひかり電話の信号をキャプチャできる装置が検討されているようです。

 

お気付きの通り、このようなキャプチャ装置があれば、LANポートを3つ備える「PCEngines apu2」を使用する必要もなくなります。そのような場合に備え、他のワンボードコンピュータ、例えばラズベリーパイでもDuetCTIとして動作するか検証してみました。データベースを同梱することまでは出来ていませんが、ラズベリーパイでも何ら問題なく動作することがわかり、「ラズパイ版CTIシステム」として情報提供しています。これには自社開発の専用UPSを実装し、停電時でも安全にシャットダウンできるようにしてみました。少しオモチャっぽいですが、廉価にCTIシステムを構成できるかもしれません。またキャプチャ装置は専用機を使いますので、電話システム自体の信頼性はむしろ向上します。

 

ひかり電話の信号をキャプチャしてCTIに利用したり通話録音するシステムは、他社からもいくつも製品が販売されています。面白そうなキャプチャ装置も開発が続いているようです。それで、DuetCTIの基本的な仕組みを独自の技術にするには無理がありますが、今後もさらに広まるであろうひかり電話と組み合わせた有用なシステムを提供し続けていきたいと思っています。